目次
- 共有等法令解説 第1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
- 共有等法令解説 第2 共有物の変更行為
- 共有等法令解説 第3 共有物の管理行為
- 共有等法令解説 第4 共有物の管理者
- 共有等法令解説 第5 変更・管理の決定の裁判の手続
- 共有等法令解説 第6 裁判による共有物分割(本ページ)
- 共有等法令解説 第7 相続財産に属する共有物の分割の特則
- 共有等法令解説 第8 所在等不明共有者の持分の取得
- 共有等法令解説 第9 所在等不明共有者の持分の譲渡
- 共有等法令解説 第10 相続財産についての共有に関する規定の適用関係
1 協議不能の場合に共有物分割できることの明文化(改正後民法258条1項)
共有者間で協議不能の場合について共有物分割ができるのか、明文はありませんでした。
判例*1は、改正前民法258条1項の「協議が調わないとき」には、協議不能の場合を含むとしていましたので、この点を明文化することになりました。
改正後民法258条1項は、「共有者間に協議が調わないとき」のみならず、「協議をすることができないとき」に、その分割を裁判所に請求することができる旨明文化しました。
2 価額分割の明文化(改正後民法258条2項2号)と関係性の整理(同条3項)
改正前民法においては、現物分割(改正前民法258条1項)及び競売分割(改正前民法258条2項)は明文で定められていました。価格賠償による分割(価額分割)は、民法に明文がないうえ、現物分割を基本的方法とし、競売分割を補充的方法とする民法第258条第2項との関係でどのように位置付けられるかが明らかではありませんでした*2。
改正後民法は、判例で認められていた価額分割を明文化したうえで(改正後民法258条2項2号)、現物分割と価額分割に優劣を設けないものとしたうえで(同条2項1号及び2号)*3、これらによる分割ができない場合、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときに競売による分割ができるものとし、その関係性を整理しました(改正後民法258条3項)。
ただ、価額分割によりその価格を著しく減少させることは基本的にないため、現物分割ができず、かつ、(判例の考慮要素にしたがった)価額分割ができない場合にのみ、競売による分割が認められることになります*4。
3 給付命令の明文化(改正後民法258条4項)
伝統的な学説は、共有物分割の判決は、分割された法律状態を形成するのみであり、価額賠償による分割を行う場合においても、賠償金の給付や移転登記手続などその後の権利取得の確保には別途給付訴訟を提起する必要があると解釈されていました。しかし、そのような手法では極めて迂遠であることから、近年の実務では、価額賠償による分割を採用する場合には、賠償金の給付は、分割内容の実現と不可分の性質を有するから、申立がなくても、共有物分割の裁判の一環として職権で命令することができるとの考え方が一般的になっていました*5。
そこで、改正後民法では、裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる旨明文化されました(改正後民法258条4項)。これは、裁判所が賠償分割を命ずる場合に金銭債務の履行を確保するため、金銭債務について債務名義を形成し、登記手続等との間での引換給付を命ずるなどの措置を行ってきた実務の立場を、遺産分割の規律(家事事件手続法第196条)を参考に立法化したものです。*6
実務では、申立が不要とされたとはいえ、共有物分割請求時に、裁判所に対して給付命令の職権発動を促すことになると思われます。また、現物の取得と対価の支払が引換給付とするかも含めて裁判所が判断するという建付けのため*7、引換給付によることも含め職権発動を促すことになります。
*1 最判昭和46.6.18民集25巻4号550頁(裁判所HP)
*2 民法不動産登記法の改正に関する中間試案補足説明(以下「補足説明」。PDFファイル) 28頁
*3 補足説明29頁
*4 日本弁護士連合会 所有者不明土地問題等に関するワーキンググループ 編「新しい土地所有法制の解説」(2021)(以下「日弁連・解説」)133頁参照。
*5 日弁連・解説132頁参照。
*6 七戸 克彦 「新旧対照解説 改正民法・不動産登記法 」(以下、「七戸・改正民法不登法」)58頁、部会資料24(法務省HP / PDFファイル)2頁、補足説明29頁及び30頁