目次
- 共有等法令解説 第1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
- 共有等法令解説 第2 共有物の変更行為
- 共有等法令解説 第3 共有物の管理行為
- 共有等法令解説 第4 共有物の管理者
- 共有等法令解説 第5 変更・管理の決定の裁判の手続
- 共有等法令解説 第6 裁判による共有物分割
- 共有等法令解説 第7 相続財産に属する共有物の分割の特則
- 共有等法令解説 第8 所在等不明共有者の持分の取得
- 共有等法令解説 第9 所在等不明共有者の持分の譲渡
- 共有等法令解説 第10 相続財産についての共有に関する規定の適用関係(本ページ)
第10 相続財産についての共有に関する規定の適用関係
1 遺産共有の性質に関する旧法規定の規律
相続財産の共有は、民法第249条以下に規定する通常の共有とその性質を異にするものではないとされています(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁)。また、この立場から判例は、共同相続人が個々の遺産の共有持分を譲渡することができるとしています(最判昭和38年2月22日民集17巻1号235頁)。
しかしながら、共有に関する規定を適用する際の各相続人の共有持分の割合がどのように定まるかについては、明文の規定がありません。具体的には、法定相続分と具体的相続分のいずれを採用するかについては争いがありました。
また、判例は、遺産共有となった財産の分割は地方裁判所による共有物分割の手続ではなく家庭裁判所の遺産分割審判によるものとしています(最判昭和62年9月4日集民151号645頁)。
これらの判例の考え方に従えば、共同相続人の中に行方不明又は生死不明の者がいる場合には、たとえ相続開始から長期間が経過した場合でも、行方不明者又は生死不明者のために不在者財産管理人を選任したうえで、共有物分割訴訟による必要があります。
しかし、このような手続は煩雑ですし、何より予納金等の負担が重くのしかかります。そこで、所有者不明土地問題を解決するため、通常の共有に関する規定の改正に応じて遺産共有に関する規定を見直すこと及び見直す場合にどの範囲にするかが検討の対象となりました。
2 法定相続分をもって各相続人の共有持分とする旨の規律の新設
(1) 規律の内容
このような問題を解決するため、遺産共有にも、民法第249条以下の規定が適用されることを前提として、その適用をする場合の持分の割合について、法定相続分によることが明確にされました。
具体的には、相続財産について共有に関する規定を適用するときは、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする旨規定されています(改正後民法898条2項)。
したがって、特定財産承継遺言(民法1014条2項)や、相続分の指定がなされた場合には、相続人の共有持分は指定相続分(民法902条1項)となります。なお、相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については登記、登録、その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないとされています(民法899条の2)。
(2) 規律の趣旨
具体的相続分を持分割合の基準としなかったのは、具体的相続分を確定することは容易ではなく、相続人で争うがある場合には寄与分の審判等を経なければ確定することができないためです*1。また、持分の価格の過半数で決する事項の中には第三者との関係が問題となる事項があり、通常、遺産共有が第三者との関係で問題となるケースでは法定相続分が基準として用いられているためです*2。
3 新たな規律の有用性
今回の規律の新設により、相続開始後10年を経過した不動産については、改正後民法262条の2による持分取得及び同法262条の3による持分譲渡が可能となります(改正後民法262条の2第2項、同法262条の3第2項参照)。これらの規律を利用することにより、特定の不動産について遺産共有状態を解消することができるようになりました。
*1 補足説明122頁「2⑴」参照。
*2 補足説明120頁