目次
- 共有等法令解説 第1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
- 共有等法令解説 第2 共有物の変更行為
- 共有等法令解説 第3 共有物の管理行為(本ページ)
- 共有等法令解説 第4 共有物の管理者
- 共有等法令解説 第5 変更・管理の決定の裁判の手続
- 共有等法令解説 第6 裁判による共有物分割
- 共有等法令解説 第7 相続財産に属する共有物の分割の特則
- 共有等法令解説 第8 所在等不明共有者の持分の取得
- 共有等法令解説 第9 所在等不明共有者の持分の譲渡
- 共有等法令解説 第10 相続財産についての共有に関する規定の適用関係
第3 共有物の管理行為
1 現行法の規定とその問題点
⑴ 現行法の規定
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する、ただし、保存行為は、各共有者がすることができる(民法252条)、とされています。
⑵ 現行法の問題点
問題となる行為が変更・処分に該当するのかについて実務上議論が分かれているため、土地共有物の円滑な利用等が阻害されることがあるほか、現在の解釈では、一般的に変更・処分に該当すると解されているものであっても、その中には、持分の過半数で定めることとすべきかの再検討が求められているものもあります*1。
改正前民法では、共有者が共有物全部を使用している場合において、他の共有者が、共有物全部を使用する共有者に明渡を求め、別の者に使用させるには共有者全員の同意を得なければならないとされていました。また、一度決定した利用方法を変更する場合には、共有者全員の同意が必要とする見解が有力とされていました。
しかし、このような考え方だと、①共有物の管理に支障が生じる、②所在不明の共有者や意思表示をしない共有者の同意が得られない場合には、事実上独占的な使用を容認するほかない、③共有物の管理については、持分価格の過半数の同意で足りるはずであるのに、利用方法が硬直化する、という指摘がありました。
2 問題を解決する方向性
不必要に共有者全員の同意を要求することによる不都合を回避するなどの観点から、共有者全員の同意が必要かについて解釈が分かれている行為の解釈の明確化や、共有者全員の同意が必要と解されている行為の取扱いの見直しをすることになりました*2。
3 解決のために定められた改正法の内容とその趣旨
⑴ 改正法の内容
民法第252条の規律を次のように改めることになりました。(改正後民法252条)
① 共有物の管理に関する事項(共有物に変更を加えるものを除く。②において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする(改正後民法252条1項)。
② 裁判所は、次に掲げるときは、ア又はイに規律する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる(改正後民法252条2項)。
ア 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
イ 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
③ ①及び②の規律による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない(改正後民法252条3項)。
④ 共有者は、①から③までの規律により、共有物に、次のアからエまでに掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(次のアからエまでにおいて「賃借権等」という。)であって、次のアからエまでに定める期間を超えないものを設定することができる(改正後民法252条4項)。
ア 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
イ 前号の賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
ウ 建物の賃借権等 3年
エ 動産の賃借権等 6箇月
⑤ 各共有者は、①から④までの規律にかかわらず、保存行為をすることができる(改正後民法252条5項)。
⑵ 改正法の趣旨・内容
①は、現行法の共有物の管理に関する規律が基本的には妥当であると解されることから、これを基本的に維持することを前提とし*3、他方で、①共有物を事実上使用する共有者がいる場合に他の共有者に共有物を使用させること、②合意によって利用方法を定め、それにより共有物を独占的に使用する共有者がいる場合であっても、持分価格の過半数により、使用方法を変更することができる旨を認めたものです。
②については、所在不明の共有者や、管理について意思表示を行わない共有者がいるときに、管理について決定が困難となるという支障が生じることを防ぎ、共有物の管理を円滑にするため、裁判手続により他の共有者の持分価格に応じて管理を決定することができる旨定めたものです(新設)。
③は、改正後民法252条1項により、各共有持分の価格の過半数により、実際に共有物を使用している者とは別の者が共有物を独占的に使用することを定めることができることから、従前使用していた共有者保護の観点から、「共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきとき」に、従前共有物を使用していた者を保護するために設けられた規定です*4。
④については、共有物に使用権を設定することは基本的には持分の価格の過半数で決することができると解されていますが、使用権の存続期間が長期であると、共有者による目的物の使用、収益等が長期間にわたって制約されることになり、共有者が負う負担が大きくなるため、存続期間が民法第602条各号の定める期間を超えることはできないこととされました*5。ここでいう「使用権」とは、地上権及び地役権が含まれますが、永小作権は含まれません*6。また、借地借家法上の借地権は存続期間が最低30年とされているため、対象になりません*7。さらに、借地借家法上の普通借家権は対象になりませんが、定期借家権はその対象になり、持分価格の過半数で設定できるものとされます*8。
⑤については、保存行為に関して従前の取り扱いを維持したものです。
4 残された課題
⑴ ③(第3項)について、「共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきとき」とは具体的には何か、という点が、残された課題といえます。
この点、「「共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、この「特別の影響」という規範的な要件を設けている趣旨は、共有物の種類及び性質が多種多様であることに鑑みて、共有物の管理に関する事項の定めに従って共有物を使用している共有者の同意を要するかを、「特別の影響」の判断の中で柔軟に対処することができるようにすることにある。したがって、「特別の影響」を及ぼすかについては、対象となる共有物の性質及び種類に応じて、共有物の管理に関する事項の定めを変更する必要性・合理性と共有物を使用する共有者に生ずる不利益を踏まえて、具体的な事案ごとに判断することになると考えられる。」*9と指摘されています。
具体的には、共有者の生活の本拠に該当する場合、共有者の事業が共有物において遂行され、または共有物なくしては事業を遂行できない場合(山林など)が想定されますが、今後の議論に委ねることになろうかと考えます*10。
⑵ ④(第4項)について、普通借家権の設定について例外的に認められる場合もあるのではないか(例えば、最終的に出口が想定され、自己居住を前提としない不動産投資物件の場合)という点が残された課題とされているのではないかと思料します。不動産投資物件の場合には、賃貸借契約の締結がそもそも予定されているのであり、そこで想定されている賃借人は個性が重視されないのですから、管理行為又は軽微変更(改正後民法251条1項)と整理することも可能ではないかと考えます*11。
なお、他人物賃貸借が認められることとの関係から、本条項に違反した場合にも、物権上の効果が否定されるのみであり、私法上の効果は認められるものと考えられます*12。
*1 民法不動産登記法の改正に関する中間試案補足説明(以下「補足説明」。PDFファイル)4頁。ここでは、「共有者間の定めがないまま(事実上その使用が単に黙認されている場合を含む。)、共有物を使用する共有者を保護する必要性が高いとはいえない」との指摘もされています。
*2 補足説明5頁。
*3 補足説明2頁及び3頁
*4 補足説明4頁、荒井達也「Q&A 令和3年 民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響」(以下、「荒井・改正要点」)57頁及び58頁、部会資料51(法務省HP / PDFファイル) 7頁(部会資料40 2頁の内容からの変更された箇所)
*5 補足説明6頁
*6 民法278条1項前段により、20年が下限とされているためです。
*7 部会資料27(法務省HP / PDFファイル) 7頁参照
*8 部会資料40(法務省HP / PDFファイル) 4頁参照。「借地借家法の適用のある建物賃貸借は、基本的に、その存続期間を本文④c所定の期間(3年)以内に制限したとしても、建物の賃貸人は、正当の事由があると認められる場合でなければ契約の更新をしない旨の通知又は建物賃貸借の解約の申入れをすることができず(借地借家法第28条)、事実上長期間にわたって継続する蓋然性があることから、建物が共有に属する場合に建物を賃貸するのは共有者に与える影響が大きいため、共有者全員の合意を必要とすると考えられる。したがって、共有者の持分の価格の過半数をもって借地借家法の適用がある建物賃貸借をした場合には、その契約は基本的に無効になると解される。これに対し、契約の更新がないこととする旨の定めを設ける定期建物賃貸借(同法第38条第1項)、取壊し予定の建物の賃貸借(同法第39条第1項)、一時使用目的の建物の賃貸借(同法第40条)については、契約の更新に伴って事実上長期間にわたって継続するおそれがなく、共有者に与える影響が大きいとはいえないと考えられることから、本文④cの規律に基づいて、その存続期間を所定の期間(3年)以内とする限りにおいて、共有持分の価格の過半数の決定により設定することが可能であると解される。」と指摘されている。
*9 部会資料40 3頁 参照
*10 なお、新しい土地所有法制の解説(日本弁護士連合会 所有者不明土地問題等に関するワーキンググループ 編)105頁(荒井達也執筆部分)によれば、①共有物の「使用者」の変更のケース、②使用「条件」の変更のケース、③使用「目的」変更のケース、が挙げられている。
*11 この点、部会21回(法務省HP)議事録(PDFファイル)21頁(大谷幹事発言)に示唆されている。なお、更新の際の考え方について、荒井・改正要点71頁が詳しい。
*12 荒井・改正要点70頁 脚注24において指摘されている。部会資料40 4頁参照。