目次
- 共有等法令解説 第1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
- 共有等法令解説 第2 共有物の変更行為
- 共有等法令解説 第3 共有物の管理行為
- 共有等法令解説 第4 共有物の管理者
- 共有等法令解説 第5 変更・管理の決定の裁判の手続
- 共有等法令解説 第6 裁判による共有物分割
- 共有等法令解説 第7 相続財産に属する共有物の分割の特則
- 共有等法令解説 第8 所在等不明共有者の持分の取得
- 共有等法令解説 第9 所在等不明共有者の持分の譲渡(本ページ)
- 共有等法令解説 第10 相続財産についての共有に関する規定の適用関係
第9 所在等不明共有者の持分の譲渡
1 所在等不明共有者の持分を第三者に売却するニーズ
共有不動産は、共有持分ごとに譲渡するより、共有者全員の合意のもとで全ての共有持分を売却する方がその売却代金は高額となります。しかし、所在等不明共有者がいる場合にはその同意が得られないため、不動産全体を売却することはできません。
旧法(現行法)の場合、①他の共有者が共有物分割訴訟を提起し、共有関係を整理したうえで売却する方法、②所在等不明共有者について不在者財産管理人を選任してその同意を得る方法が考えられます。しかし、①の方法では送達等について問題が生じ時間がかかりますし、②管理人を選任するためにはその報酬等の費用を支出することが不可避であり、売却によって共有者が得る金額が結局減少してしまいます。加えて、共有者の中に不特定共有者がいる場合には、裁判による共有物分割の方法をとることはできず、共有物全体を売却することができません*1。
2 所在等不明共有者の持分譲渡権限付与決定
改正後民法では、不動産の共有関係を円滑に解消する観点から、共有者間での持分取得のプロセスを経ずに、所在等不明共有者以外の共有者が所在等不明共有者の持分を含む不動産全体を直接第三者に譲渡することを可能にしています*2。
具体的には、所在等不明共有者の共有持分について、共有物分割請求訴訟や不在者財産管理人の関与を経ずに、他の共有者に処分権限を付与することにより処分するとという規律が定められました。
3 所在等不明共有者の第三者に対する持分譲渡の規律
所在等不明共有者の第三者に対する持分譲渡について、次のような規律が設けられます。
(1) 裁判所による所在等不明共有者の持分譲渡決定の要件
①不動産が数人の共有に属する場合で、
②共有者が他の共有者を知ることができず、又は、その所在を知ることができないとき、
③当該他の共有者(所在等不明共有者)以外の共有者の全員が特定の者に対しその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として
④他の共有者の請求により、所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができます(以上、改正後民法262条の3第1項)。
(2) 相続財産に属する場合の例外
ただし、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、譲渡権限付与の裁判をすることができません(改正後民法262の3第2項)。
(3) 所在等不明共有者の支払請求権
譲渡権限付与の裁判により付与された権限に基づき、共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができます(改正後民法262条の3第3項)。
(4) 所有権以外の使用収益権利への準用
(1)から(3)までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用されます(改正後民法262条の3第4項)。
(5) 譲渡権限付与の裁判手続
①共有者から譲渡権限付与の裁判の申し立てがあったときは、裁判所は、所在等不明共有者の持分譲渡権限付与請求事件の係属する裁判所に譲渡権限付与の裁判の申し立てがあったこと、異議の届出をすべきこと、異議届出が無い場合には譲渡権限付与の裁判がなされることを公告します(改正後非訟事件手続法88条2項、同87条2項1号、2号及び4号)。この異議届出期間は3か月を下ってはならないとされています(改正後非訟事件手続法88条2項、同87条2項柱書後段)。
②また、裁判所は、譲渡権限付与の決定をするにあたり、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければなりません(改正後非訟事件手続法88条2項、同87条5項)。なお、供託金額は、いわゆる共有減価を考慮しない金額が基準となるとされています*3。また、供託金額を決定するにあたり、申立人が支出した経費を控除することは認められていないものとされています*4。
③裁判所は、譲渡権限付与の決定の要件を満たすと考えるときは、所在等不明等共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として申立人に持分譲渡の権限を付与する決定をします(改正後民法262条の3第1項)。この権限付与の決定は終局決定としての性質を有し、これに対しては即時抗告をすることができます(非訟事件手続法66条)。また、決定は2週間の経過により確定し効力が生じます(非訟事件手続法67条)。
(6) 持分譲渡の権限付与決定後の手続
①持分譲渡の権限付与の決定確定により決定の効力が生じた後2か月以内にその権限付与決定による持分譲渡の効力が生じない場合には、決定はその効力が失われます。但し、2か月という期間は伸長することができます(改正後非訟事件手続法88条3項本文)。なお、停止条件が成就していることは必要ですが、持分移転登記が完了していることまでは不要とされています。
②権限付与の決定を受けた共有者は、所在等不明共有者以外の共有者全員と協議の上、第三者との間で売買契約を締結するなど適宜の方法をとることで、不動産全体を売却することができます。所在等不明共有者の持分については、権限付与を受けた共有者が、その権限に基づいて、第三者と契約を締結することにより第三者にその所有権が移転することになります*5。なお、譲渡した不動産に契約不適合等の不具合があった場合においても、所在等不明共有者は契約当事者ではないため担保責任を負わないものとされています*6。
③所在等不明共有者の持分の移転登記の方法については、権限を付与された共有者と第三者との共同申請で行われます*7。
(7) 所在等不明共有者による時価相当額支払請求権の取得
権限を付与された共有者が所在等不明共有者の持分を譲渡したとき、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払請求権を取得します(改正後民法262条の3第3項)。また、所在等不明共有者は供託金の還付を受けることができ、供託金は、当該時価相当額支払請求権の弁済に充当されることになります。なお、ここでいう「時価相当額」とは、あくまでも不動産全体の時価相当額を基準として持分割合に応じて決定された金額であり、持分自体の時価ではない(いわゆる共有減価がされた金額ではない)ことに留意が必要です。
また、供託金額と時価相当額支払請求権は必ずしも一致しないことに留意が必要です(但し、多くの場合には一致するものと思われます)。したがって、還付を受けた金額が時価相当額支払請求権に満たない場合には、共有者に差額の支払を求めることができます。
また、権限付与を受けた共有者が無償譲渡又は低廉な金額で譲渡をした場合にも、時価相当額支払請求権の金額に影響を及ぼしません。権限付与を受けた共有者と所在等不明共有者との間で時価相当額につき争いが生じるときは、最終的に訴訟で判断されることになります*8。
4 残された課題
不特定共有者(共有者の氏名すら不明の場合)の不動産の共有持分を譲渡する権限を付与する場合、最終的には裁判所が供託すべき金額を定めることになりますが、何を基準として、不特定共有者の持分の価格を算定するのかが問題となります。
例えば、不動産が共有されているが、必要な調査を尽くしても請求をした共有者以外の共有者を特定することができないケースでは、共有者の総数を特定することができない以上、土地全体の額を供託の額とせざるを得ないという考え方や、各共有者の持分は相等しいものと推定されることを前提に(民法第250条)、少なくとも、共有者は請求をした共有者と不特定共有者の2人おり、特定共有者の持分は2分の1であるとして金額を算定するという考え方などもあり得ます*9。
この点に関しては改正後の実務の集積に委ねられるところかと思われます。
*1 補足説明35頁、36頁及び42頁
*2 法律のひろば2021.10 11頁
*3 補足説明39頁参照。
*4 第21回議事録31頁参照。
*5 部会資料41・10頁「2」参照。
*6 部会資料41・10頁、第17回議事録42頁参照。
*7 部会資料41・10頁「3」参照。
*8 部会資料41・8頁「3」参照。
*9 補足説明42頁及び43頁