目次
- 共有等法令解説 第1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
- 共有等法令解説 第2 共有物の変更行為
- 共有等法令解説 第3 共有物の管理行為
- 共有等法令解説 第4 共有物の管理者
- 共有等法令解説 第5 変更・管理の決定の裁判の手続
- 共有等法令解説 第6 裁判による共有物分割
- 共有等法令解説 第7 相続財産に属する共有物の分割の特則
- 共有等法令解説 第8 所在等不明共有者の持分の取得(本ページ)
- 共有等法令解説 第9 所在等不明共有者の持分の譲渡
- 共有等法令解説 第10 相続財産についての共有に関する規定の適用関係
第8 所在等不明共有者の持分の取得
1 共有者が所在不明の場合や共有者の氏名が不明の場合の弊害
不動産の共有者に所在を知ることができない者(以下「所在不明共有者」という。)や氏名等を知ることができない者(以下「不特定共有者」といい、所在不明共有者と併せて「所在等不明共有者」という。)があると、これらの者との間では協議をすることができず、共有物の管理に支障が生ずるおそれがあります。
もっとも、共有関係を解消する方法として、裁判による共有物分割をする際には、一定の時間や手続きを要し、具体的な分割方法は裁判所の裁量により決せられるため、その予測が困難です。
また、不特定共有者がいるときには、裁判による共有物分割の方法をとることもできません*1
2 所在等不明共有者との間で共有関係を解消する制度の創設
(1)共有物分割を経ずに裁判所の決定により持分取得を認める制度の創設
所在等不明者がいる不動産について、共有物分割によることなく、裁判所の決定により、所在等不明共有者の不動産の持分を他の共有者が取得することを可能にする制度が創設されました。
(2)所在等不明等共有者の持分の取得制度の概要
- 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(所在等不明共有者)の持分を取得させる旨の裁判をすることができます。この場合において、請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させることになります(改正後民法262条の2第1項)。
- しかし、共有物の持分取得請求があった持分に係る不動産について、裁判による共有物分割請求(改正後民法258条第1項)又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が裁判所に共有持分取得の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、①共有持分取得の裁判をすることができません(改正後民法262条の2第2項)。
- また、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①共有持分取得の裁判をすることができません(改正後民法262条の2第3項)。
- 共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができます(改正後民法262条の2第4項)。
- なお、1から4までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用されます(改正後民法262条の2第5項)*2
- 裁判所は、所在等不明共有者の持分について、①共有持分取得の申立があった場合には、申立があったこと等を公告し、裁判所が定めた期間(3箇月以内)が経過しなければ、①共有持分取得の裁判をすることができません(改正後非訟事件手続法(以下改正後非訟法)87条2項)。
- 裁判所は、①共有持分取得の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならず(改正後非訟法87条5項)、申立人が供託命令に従わない場合には、共有持分取得の裁判は却下されます(改正後非訟法87条7項。但し、即時抗告をすることはできます。)。
(3)所在等不明の要件
「共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」とは、必要な調査を尽くしても、共有者の氏名・名称又はその所在を知ることができないことをいい*3、その調査の程度については、通常訴訟において公示送達が認められるための要件を充足すると判断される場合と同程度の調査が必要となるとされています*4。
(4) 供託金額の決定方法
所在等不明共有者の持分を取得するためには、あらかじめ供託をしなければならないこととしているのは、所在等不明共有者の利益を保護する(代金の弁済を確保する)ためです*5。
裁判所においては、事案に応じて、不動産鑑定士の評価書や、固定資産税評価証明書、不動産業者の査定書などの証拠をもとに判断されるものと考えられます*6。供託金額の決定にあたり、共有原価の可否*7*8、経費控除の可否、持分割合がそもそも不明の場合の処理等が問題になりえますが*9、所在等不明共有者の利益を保護するという観点から、保護に必要十分かという観点から決定されるものと考えられます。
*1 補足説明35頁及び42頁
*2 要綱案5頁
*3 中間試案9頁
*4 部会資料56・10頁参照。
*5 補足説明37頁、家庭と法の裁判31号18頁
*6 部会資料56 13頁。
*7 補足説明37頁及び38頁
*8 荒井・改正要点120頁、法制審議会 民法・不動産登記法部会第9回会議 議事録51頁(水津幹事発言)、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会提供資料「民法・不動産登記法の改正について(2020年2月付け)」5頁
*9 日弁連・解説 157頁以降参照