目次
- 共有等法令解説 第1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
- 共有等法令解説 第2 共有物の変更行為
- 共有等法令解説 第3 共有物の管理行為
- 共有等法令解説 第4 共有物の管理者
- 共有等法令解説 第5 変更・管理の決定の裁判の手続
- 共有等法令解説 第6 裁判による共有物分割
- 共有等法令解説 第7 相続財産に属する共有物の分割の特則(本ページ)
- 共有等法令解説 第8 所在等不明共有者の持分の取得
- 共有等法令解説 第9 所在等不明共有者の持分の譲渡
- 共有等法令解説 第10 相続財産についての共有に関する規定の適用関係
1 遺産共有持分についての民法の規律(改正前民法)
⑴ 遺産共有となった財産の解消方法
共同相続人は、法定相続分又は指定相続分の割合に応じて遺産に属する財産に共有持分権を有しています*1。民法898条に規定する相続財産の共有は、民法249条以下に規定する共有と同様の性質を有します*2。したがって、相続人は、個々の遺産の共有持分を譲渡することができます*3。
しかし、共同相続人の共有となった財産の分割は共有物分割手続によることができず、家庭裁判所の遺産分割審判によるというのが判例です*4。
したがって、遺産共有となった財産について共有物分割手続により共有関係を解消する場合には、遺産分割審判を経由する必要があります。
⑵ 通常共有持分と遺産共有持分が併存されている場合の処理
通常共有持分(共同相続人での遺産共有状態になっていない共有持分*5)と遺産共有持分が併存する場合(例えば、Aが1/2通常共有持分を有し、Bが1/2持分を有していたが、Bが死亡し、Bの持分をC及びDが共同相続した場合)において、通常共有持分と遺産共有持分との間の共有関係の解消を求める方法は、民法258条に基づく共有物分割訴訟とするのが判例です*6。
しかし、上記のように遺産共有持分については遺産分割審判によるものとされていますので、共有物の通常共有持分を有する者が全面的価額賠償により取得させる旨の判決がなされた場合、遺産共有持分権者に支払われる賠償金は遺産分割によりその帰属が確定されるべきとされていました*7。
2 改正前民法の問題点と解決の方向性
⑴ 遺産共有持分の存在が所有者不明土地問題の一因になっていること
上記の例では、Aが全面的価額賠償により不動産全部を取得する旨の判決を得ても、C及びDでその代償金の分配を決めることになります。そのため、最終的な共有関係の解消には遺産分割を待たなければいけないという難点がありました。
したがって、遺産分割の長期間放置により、共有関係の処理も同様に放置されることになり、これが所有者不明土地問題の一因となっています。
⑵ 遺産共有持分も一定期間後に共有物分割訴訟の対象とする方向性での解決
問題点を解決するために、遺産共有持分について原則として共有物分割請求によることはできないという判例の枠組みは維持しつつ(改正後民法第258条の2第1項)、相続開始から10年を経過したときは、遺産共有持分について(遺産分割審判を経ずに)共有物分割請求ができる旨規定されました(改正後民法258条の2第2項)
3 改正後民法第258条の2
⑴ 規定内容
- 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。
- 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
- 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から二箇月以内に当該裁判所にしなければならない。」
⑵ 改正後民法の趣旨
遺産共有持分のその解消の方法としては、基本的に遺産分割の手続をとるという判例を明文化し(第1項)、相続開始の時から10年を経過したときは、相続人は、遺産に属する個々の財産につき、共有物分割の手続をとることもできるとする(第2項本文)ものです。
他方で、遺産分割の請求があった場合に相続人が2か月以内異議の申出をしたときは共有物分割の手続ができないこととしたのは、具体的相続分による分割や民法第906条による分割等を受けることができる権利を不当に害することのないようにしています(第2項但書及び第3項)。
4 実務上遺産共有持分について共有物分割訴訟での処理が可能となったこと
⑴ 改正後民法第258条の2の適用により、遺産共有持分についても共有物分割訴訟のみで共有関係の解消ができることなります(紛争の一回的解決)。
⑵ 他方で、共有物分割訴訟によることを望まない相続人の権利保護の期間は2か月と短いことから、共有物分割訴訟の通知(多くの場合特別送達かと考えます)が届いた場合には、早急に遺産分割申立・異議の検討をする必要があります。
⑶ なお、相続財産に属する共有物の持分を対象とする遺産分割手続の申立てがされた一方で、当該共有物につき共有物分割請求訴訟が提起され、相続人の異議の申出がなかったときは、双方の事件が同時に係属することになりますが、この場合にどのような処理となるかが問題となる。
*1 最判昭和50年11月7日民集29巻10号1525頁(裁判所|判例DB)等参照。
*2 最判昭和38年2月22日民集9巻6号793頁は、「民法249条に規定する『共有』とその性質を異にするものではない」と判示。
*3 最判昭和38年2月22日民集17巻1号235頁(裁判所|判例DB)参照。
*4 最判昭和62年9月4日集民151号645頁(裁判所|判例DB)。
*5 この通常共有持分は、相続開始前から共同相続人以外の第三者が持分を有していた場合のみならず、相続開始後に共同相続人が第三者に遺産の共有持分を譲渡した結果、第三者が通常共有持分を有する場合などを含む。なお、日本弁護士連合会 所有者不明土地問題等に関するワーキンググループ 編「新しい土地所有法制の解説」(2021) 136頁における場合分けの記載も参照。