目次
- 共有等法令解説 第1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等(本ページ)
- 共有等法令解説 第2 共有物の変更行為
- 共有等法令解説 第3 共有物の管理行為
- 共有等法令解説 第4 共有物の管理者
- 共有等法令解説 第5 変更・管理の決定の裁判の手続
- 共有等法令解説 第6 裁判による共有物分割
- 共有等法令解説 第7 相続財産に属する共有物の分割の特則
- 共有等法令解説 第8 所在等不明共有者の持分の取得
- 共有等法令解説 第9 所在等不明共有者の持分の譲渡
- 共有等法令解説 第10 相続財産についての共有に関する規定の適用関係
1 現行法(改正前民法を意味します。以下同じです)の内容とその問題点
⑴ 現行法の内容
具体的な規律はありません。
⑵ 現行法の問題点
現行法上、共有物を使用する者が、他の共有者に対してどのような義務を負うかについての具体的規律は設けられてません。その内容は必ずしも明らかではなく、共有物の円滑な利用を阻害する原因となっています*1。
2 問題点を解決する方向性
共有物の円滑な利用のために、共有物を使用する者と他の共有者の関係に係る規律を明確化することになりました。
3 解決のために定められた改正法の内容と趣旨
⑴ 改正法の内容
共有物を使用する共有者と他の共有者との関係について、次の規律を設けることになりました。
① 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う(改正後249条2項)。
② 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない(改正後249条3項)。
⑵ 改正法の趣旨
ア ①について
共有者の一人が共有物を使用するとしても、その共有者は、その使用によって使用が妨げられた他の共有者の持分との関係では、無償で使用する権利がないものと整理されます(民法第190条参照)。また、後述の第3における共有物の管理の新規定をもって、共有持分の価格の過半数によって、他の共有者の収益権自体を否定することはできないものと解されます*2。他方で、自己の持分に応じた範囲内の使用については、使用対価の償還義務の対象から除外することが相当です*3。
そこで、当事者間の公平のために①の規律が定められました。なお、共有者間で無償使用の合意をすることは妨げられないことから、別段の合意により無償使用とすることができる旨解釈されます*4。なお、一部の共有者との間にのみ別段の合意があるにすぎない場合、合意をしていないとしてその使用の対価を償還する義務を負うことになります。
イ ②について
②について、共有物を使用している共有者は、他の共有者の持分との関係では、他人の物を管理していると整理されることから、善管注意義務があることを示すために定められました*5。
4 残された課題
①の「使用の対価」の内容が必ずしも明確でなく、どのような基準で金額を算定するか、課題となることがあり得ます。
また、②の善管注意義務の解釈ですが、そもそも、共有者は本来各自が自己の持分に応じて共有物の全てを使用する権利を有しています(改正後249条1項)。この前提において、善管注意義務が具体的にいかなる内容になるのか、今後の裁判例等の集積を待つことになると思われます*6。
*1 民法不動産登記法の改正に関する中間試案補足説明(PDFファイル。以下「補足説明」といいます。)14頁及び15頁
*2 補足説明15頁参照。
*3 法制審議会民法・不動産登記法部会第24回会議(法務省ページ): 部会資料(以下「部会資料」といいます。)56 6頁参照。
*4 補足説明15頁
*5 補足説明16頁
*6 なお、荒井達也「Q&A 令和3年 民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響」90頁においては、善管注意義務を課すことに対する問題意識が提示されており、参考になります。