2 竹木の枝の切除等
(1) 現行法の内容とその問題点
民法第233条第1項は、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。」としています。そのため、竹木の所有者が枝を切除しない場合、越境した竹木の枝により土地の利用が妨げられている土地の所有者は、竹木の所有者の所在を探索した上で、訴訟を提起して、請求認容判決を得た上で、強制執行を申し立てる必要があります。しかし、この手続には少なくない時間を要し、土地の円滑な管理の妨げになっています(部会資料7 1頁参照)。
(2) 問題点を解決する方向性
法制審議会では、竹木を自ら伐採できるという案も検討されました(中間試案の補足説明99頁参照。)。しかし、枝の切除請求における隣地所有者の手続保障に鑑み、現行法と同様に、土地所有者は、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができるとする原則的規律を設けるに留めています(要綱案第1の21参照)。そのうえで、類型的に土地所有者による直接の救済が具体的妥当性を持つ場合に土地所有者が自ら竹木の枝を切除することができる事が可能になっています。
また、竹木が共有に属する場合には、各共有者がそれぞれ越境した竹木を伐採できるものとされました(共有者間の権限の規律として整理されています。部会資料51 3頁参照[1]。)。
(3) 解決のために定められた要綱案の内容とその趣旨
ア 要綱案の内容
民法第233条第1項の規律は次のように改められます。
① 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
② ①の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
③ ①の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
ア 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
イ 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
ウ 急迫の事情があるとき。
イ 要綱案の趣旨
本文①については、先述の通り、枝の切除請求における隣地所有者の手続保障を重視し、竹木の所有者に枝を切除させることができるという規律を維持したものです。
本文②については、竹木が共有されている場合に、竹木の共有者のいずれもが枝を適切に管理せずに越境させていることに着目して、共有者が自ら切除をすることができるという規律として整理するものです。
本文③については、類型的に土地所有者による直接の救済が具体的妥当性を持つ場合に土地所有者が自ら竹木の枝を切除することができる事を可能にするためのものです。
(4) 残された課題
土地所有者が切り取った枝が竹木の所有権が問題になります。すなわち、土地所有者が切り取った枝が竹木の所有者のものであるとすると、切り取った枝を自ら処分できません。この点の規律が残された課題として残っています。同様の問題が竹木の果実にも存在します。
[1] なお、中間試案等では、管理に属する事項として共有物の持分の過半数の承諾を得た際には、自ら切除できる規定を検討する案も出た(部会資料32 11頁参照)。
目次
・民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案 第1の1 隣地使用権
・民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案 第1の2 竹木の枝の切除等[本ページ]