コラム

3 継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権

2021/11/18
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(1) 現行法の内容とその問題点

現代生活において、水道、下水道、ガス、電気、電気通信等のライフラインは必要不可欠ですが、他人の土地や他人の設置した導管等を経由しなければ、ライフラインの導管等を引き込むことができない土地もあります。民法は、ライフラインの技術が未発達の時代に制定されたため、民法第220条や、第221条等を除き、各種ライフラインの設置における他人の土地等の使用に関する規定を置いていません。実務上は、これらの規定の類推適用によりライフラインの導管等の設置を認めた裁判例が多数ありますが、その基準が不明確なものとされていました。

そのため、土地所有者がライフラインのための導管等の設置を希望する場合において、いかなる根拠に基づいて対応すべきかが判然とせず、また、隣地所有者が所在不明であるケースでは、設置に当たって対応に苦慮するという状況になっています。

そこで、他人の土地に導管等を設置する権利や他人の導管等に接続する権利の明文化が検討されました。

 

(2) 問題点を解決する方向性

ライフラインのための導管等を念頭に継続的給付を受けるための導管又は導線の設置又は接続に係る規律を新たに設けることとされました。

 

(3) 解決のために定められた改正法の内容とその趣旨

ア 改正法の内容

継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権について、次のような規律が設けられました(改正後民法213条の2。)。

① 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下①及び⑧において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる(改正後民法213条の2第1項)。

② ①の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(③において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない(改正後民法213条の2第2項)。

③ ①の規律により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない(改正後民法213条の2第3項)。

④ ①の規律による権利を有する者は、①の規律により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、前記1の①ただし書及び②から④までの規律を準用する(改正後民法213条の2第4項)。

⑤ ①の規律により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(④において準用する前記1の④に規律する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、1年ごとにその償金を支払うことができる(改正後民法213条の2第5項)。また、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない(改正後民法213条の2第6項)。

⑥ ①の規律により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない(改正後民法213条の2第7項)。

⑦ 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、⑤の規律は、適用しない(改正後民法213条の3第1項)。

⑧ ⑦の規律は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する(改正後民法213条の3第2項)。

 

イ 改正法の趣旨

① 改正後民法213条の2第1項は、継続的給付を受けるための設備設置権等は、基本的に近隣の土地等の所有者間の権利関係を調整するものであり、他の土地又は他人が所有する設備の所有者は設備の設置等を受任する義務を負うという考え方のもと、端的に、土地の所有者は他の土地等に設備等を設置・使用することができるとしたものです。

② 改正後民法213条の2第2項は、継続的給付を受けるための設備を設置する際には他の土地等の所有者の当該土地の所有権の制約最小限にしなくてはならないことを注意的に規定しています。

③ 改正後民法213条の2第3項は、土地の所有者は端的に他の土地に対して設備を設置するものとされたことから、その設置の前に、その設置者に予め他の土地の所有者及び他の土地現に使用する者に対する事前通知義務を負わせることで、設備設置の負担を負う土地の所有者またはこれを現に使用する者の利益保護を図る趣旨です。

④ 改正後民法213条の2第4項は、設備を設置・使用するにあたり、当該土地の使用を余儀なくされ、土地の使用ができないと設置・使用も不可能となることから、設置・使用にあたって、他の土地を使用することができる旨規定したものです。

⑤ 改正後民法213条の2第5項及び同第6項は、設備設置等の行為により、設備等を設置される予定の土地等に生じた損害について、民法212条を参考として、設置者に償金支払義務を負わせることで当事者間の公平を図る趣旨です。なお、この償金には、

(a) 他の土地を使用する場合に当該土地の所有者や使用者に一時的に生じる損害に対する償金(改正後民法213条の2第6項)

(b) 設備の設置によって土地が継続的に使用することができなくなることによって生じる損害に対する償金(改正後民法213条の2第5項)

以上の2種類のものがあると整理されています。この点、(b)については、1年毎の定期払が認められています。

⑥ 改正後民法第213条の2第7項は、設備によって土地所有者に利益になる場合には、公平の観点からその利益を受ける割合に応じてその費用を負担するものとされました。

⑦ 改正後民法第213条の3は、土地の分割により袋地が生じた場合において、分割者の所有地に設備等を設置することがありますが、その際には、分割又は譲渡と関係のない周囲の第三者に迷惑をかけないで処理するのが当然であるという民法213条の趣旨を及ぼし、他の分割者の所有地のみに設備を設置するとしたものです。また、分割の際に償金支払に関する協議を行っていなことが通例であり、償金を支払うことを要しないとする民法第213条の趣旨をこの場合にも及ぼしたものです。

 

⑷ 残された課題

償金の内容、具体的算定基準が問題となります。

償金の適正額についての基準は必ずしも明らかではありません。

この点は個別具体的に検討を要するもので、今後の裁判例の蓄積等によって相場観が構成されていくものと思われます。

 

 

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